日本感染症学会 COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 13 版 2022年2月10日
の内容を一般の方がわかりやすいようにまとめました。
新型コロナ治療薬について
新型コロナ治療薬とは
新型コロナ感染がかなり増えてきて心配です。お薬による治療でよくなりそうな気がするのですが、どんな種類の薬があって、私たちは使うことができるのか知りたいです。
新型コロナへの怖さから、治療薬をもとめる声も高まっていますが、限られた治療薬を有効に使うため、患者さんも薬剤についての知識をつけていくのがいいでしょう。
どのお薬も、だれが使っても有効なのではなく、対象があります。また新型コロナはほとんどの場合、お薬はなくても自然に軽快するので無暗にお薬を求めることは控えましょう。
新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)では、発症後数日はウイルス増殖が、そして発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられています。
したがって、発症早期には抗ウイルス薬または抗体薬、発症7日前後以降の徐々に悪化がみられる中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となります。
のちほど細かく説明しますが、症状のフェーズ別での使い方一覧は以下のようになります。
治療薬を使う際の注意点、対象患者
いろいろなお薬があるんですね。もし私が感染したらどの薬を使おうかな・・・
いろいろな薬があるように見えますが、全ての感染者が対象となるわけではありません。まずは一般的な注意点についてまとめていきます。
まず軽症例の大半は自然治癒するため、各薬剤の適応に従い、重症化リスクが高い場合に薬物治療を検討します。
【重症化リスク】
・50歳以上
・肥満[BMI 30 kg/m2以上]
・心血管疾患[高血圧を含む]、慢性
・肺疾患
・1型又は2型糖尿病
・慢性腎障害[透析患者を含む]
・慢性肝疾患
・免疫抑制状態 などです。
一般に、重症化リスク因子のない無症状病原体保有者では薬物治療は推奨しません。
新型コロナ治療薬の分類
COVID-19に対する薬物治療は、
①抗ウイルス薬・抗体薬
②免疫調整薬・免疫抑制薬
③抗凝固薬
④その他に大別されます。
今回のまとめでは主に①、②についてです。
抗ウイルス薬
・レムデシビル
・モルヌピラビ
・ニルマトレルビル/リトナビル
抗体薬
・カシリビマブ/イムデビマブ*
・ソトロビマブ
免疫調整薬・免疫抑制薬
・デキサメタゾン
・バリシチニブ
・トシリズマブ
*承認薬でも、オミクロン株にはカシリビマブ/イムデビマブは使用が推奨されない
新型コロナ治療薬 各薬剤ごとの説明
無症状の方がお薬を使わないことや、お薬が必要なのは重症化リスクを持つ方なのはわかりました。でもどんなお薬があるか気になります。
基礎疾患をお持ちの方はやはり心配だと思います。お薬について日本感染症学会からの出されている薬物治療の考え方をまとめました。
少し長いので要点だけ気になる方は各目次の最後にある「POINT」の部分を見てみてくださいね。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)
レムデシビルを投与した群とプラセボ群又はコントロール群と比較したランダム化比較試験(RCT)は、肺炎患者や入院患者を対象とするものとしては主に以下の5試験が報告されています。
5つのうち3つの試験で死亡率や臨床的改善に有意差がなかったようです。
総じて、レムデシビルはすでに挿管や高流量の酸素投与に至った重症例では効果が期待できない可能性が高いですが、サブグループ解析の結果からは、そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性があるかもしれません。
投与期間に関しては、挿管例を除く低酸素血症のあるCOVID-19肺炎患者では5日間治療群と10日間治療群とでは有効性・副作用に差がなかったこと、および前述の軽症肺炎を対象として3群でのRCTでは10日間投与群と標準治療群は有意差が見られなかったことから、原則として5日間の投与が推奨されるが、個々の患者の背景に応じた判断を行う。
【レムデシビルのポイント】
・高流量の酸素投与が必要な重症例では効果が期待しにくい。
・重症例までいかない肺炎症例では効果が期待できそう。
・ただし5つのRCTのうち3つで有意差がないことも考慮が必要。
・治療は原則5日間の投与が推奨。点滴での治療になる。
モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル)
レムデシビルと違い、内服であり期待されている治療薬であるモルヌピラビル。
日本国内の 3 施設を含む20か国、107施設で実施した多施設共同、プラセボ対照、ランダム化二重盲検試験では、重症化リスクのある非重症 COVID-19 患者(目標症例数 1,550 例)の外来治療を対象にモルヌピラビル 800 mg またはプラセボを1日2回、5日間経口投与する群に 1 対 1 で無作為割付した結果、発症5日以内の治療開始でプラセボ群(699 名)の重症化が 68 名(9.7%)に対し、治療群(709 名)では 48名(6.8%)と、相対的リスクが 30%減少となった。また、死亡例は治療群で1名(0.1%)に対して、プラセボ群では 9名(1.3%)と治療群で少なかった。
内服方法としては、18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして 1回800mgを1日2回、5日間経口投与となります。
【特記すべき注意点】
①本剤の有効性・安全性に係る情報は限られていること等を踏まえ重症度リスクを有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に使用を検討する必要がある。
(重症化リスク)
・61 歳以上
・活動性の癌(免疫抑制又は高い死亡率を伴わない癌は除く)
・慢性腎臓病
・慢性閉塞性肺疾患
・肥満(BMI 30kg/m2 以上)
・重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)
・糖尿病
・ダウン症
・脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
・コントロール不良の HIV 感染症及び AIDS#
・肝硬変等の重度の肝臓疾患
・臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後
②重症度の高い COVID-19 患者に対する有効性は確立しておりません。
③臨床試験において、症状発現から 6 日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
④ 新型コロナウイルスワクチンの被接種者は臨床試験で除外されているため、ブレイクスルー感染での重症化予防等の有効性を裏付けるデータは得られていない。
⑤動物での非臨床毒性試験において、胎児の体重減少、流産、奇形等の影響が報告されている。妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。また、授乳婦については、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。尚、臨床試験では参加者に対して、服用中及び服用後 4 日間の避妊を行い、授乳を避けることが指示されていた。
【モルヌピラビルのポイント】
・重症化リスクがある感染者が対象。
・重症度の高い感染者への有効性は確立していない。
・症状出現から5日以内の使用が望ましい。
・臨床試験ではワクチン未接種者のデータであり、接種者への有効性のデータはない。
・ 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しない。授乳中も注意。
・ 臨床試験では参加者に対して、服用中及び服用後 4 日間の避妊を行い、授乳を避けることが指示されていた。
ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック )
国内外で実施された多施設共同、プラセボ対照、ランダム化二重盲検試験において、重症化リスクのある非入院 COVID-19 患者の外来治療を対象に行われた結果では、プラセボ群(682 名)の 28 日目までの入院又は死亡が 44 名(6.5%)に対し、治療群(697 名)では 5 名(0.7%)と、相対的リスクが 89%減少という結果であった。
【特記すべき注意点】
①本剤の有効性・安全性に係る情報は限られていること等を踏まえ重症度リスクを有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に使用を検討する必要がある。
(重症化リスク)
・60 歳以上
・BMI 25kg/m2 超
・喫煙者(過去 30 日以内の喫煙があり、かつ生涯に 100 本以上の喫煙がある)
・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与
・慢性肺疾患(喘息は、処方薬の連日投与を要する場合のみ)
・高血圧の診断を受けている
・心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニトログリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頚動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する)
・1 型又は 2 型糖尿病
・限局性皮膚がんを除く活動性の癌
・慢性腎臓病
・神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等)
・医療技術への依存(SARS-CoV-2 による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法等)、等
②重症度の高い COVID-19 患者に対する有効性は確立しておりません。
③COVID-19 の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から 6 日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
・重症化リスクがある感染者が対象。
・重症度の高い感染者への有効性は確立していない。
・症状出現から5日以内の使用が望ましい。
・併用薬剤と相互作用を起こすことがあるため、服用中の全ての薬剤を確認が必要。
ファビピラビル(商品名:アビガン 国内未承認薬)
ファビピラビルは効能・効果を「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(但し、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」に限定して、2014年3月に厚生労働省の承認を受けています。
国外、国内でのいくつかの臨床試験があります。
国内では無症状・軽症患者89名に実施された多施設無作為化オープンラベル試験があり、通常投与群は、遅延有意差には達しなかったものの早期のPCR陰性化、解熱傾向が見られました。
また発熱から10日以内の呼吸不全のない肺炎患者156名を対象としたプラセボ対照単盲検RCT(企業治験)では、主要評価項目(解熱、酸素飽和度改善、胸部画像改善、PCR陰性化の複合アウトカム)の達成がファビピラビル群で11.9日、プラセボ群で14.7日であった(P =0.0136)
【 ファビピラビル のポイント】
・国内未承認である。
・海外の臨床試験では有意差のない報告もあるが、国内の報告からは軽症例、呼吸不全のない肺炎症例では効果が期待できる可能性がある。
カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)
中和抗体薬は、発症から時間の経っていない軽症例でウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示されています。
重症化リスク因子を1つ以上持つCOVID-19外来患者4,057人を解析対象としたランダム化比較試験では、発症から7日以内のカシリビマブ/イムデビマブの単回点滴静注投与により、プラセボと比較して、COVID-19による入院または全死亡がそれぞれ71.3%(1.3%対4.6%、 p<0.0001)、70.4%(1.0%対3.2%、p=0.0024)有意に減少しました。
症状が消失するまで の期間(中央値)は、両投与群ともプラセボ群に比べて4日短かった(10日対14日、p<0.0001)。
また96時間以内に感染者と家庭内接触のあった被験者1,505名を対象としたランダム化比 較試験では、カシリビマブ/イムデビマブの単回皮下投与により、発症に至った被験者の割 合は、本剤群11/753例、プラセボ群59/752例であり、プラセボと比較して、発症のリスクが 81.4%有意に減少した。
【投与時の注意点】
・中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性があるため、流行株の情報をふまえ、適応の判断が必要。
・オミクロン株では効果が減弱するため、推奨されない。
【発症後での投与時の注意点】
・新型コロナの重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象とする。
・高流量酸素又は人工呼吸管理を要する患者において症状が悪化したとの報告があるため注意。
・症状出現から7日以内の使用が望ましい。
【発症抑制での投与時の注意点】
・予防の基本はワクチンであり、ワクチンに置き換わるものではない。
・以下の3点のすべてに該当する方が発症抑制での使用の対象となる。
① COVID-19患者の同居家族又は共同生活者等の濃厚接触者
又は無症状のSARS-CoV2病原体保有者
② 原則として、COVID-19の重症化リスク因子を有する者、
③ COVID-19に対するワクチン接種歴を有しない者、
又はワクチン接種歴を有する場合でその効果が不十分と考えられる者
【 カシリビマブ/イムデビマブ のポイント】
・ 新型コロナの重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者が対象。
・ 症状出現から7日以内の使用が望ましい。
・発症抑制の効果がある。ただしワクチンの代わりにはならない。
・オミクロン株では効果が減弱するため、推奨されない。
ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)
ソトロビマブ はSARS(重症急性呼吸器症候群)に感染した患者から得られた抗体を基にしたモノクローナル抗体であり、SARS-CoV-2を含むベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属(Sarbecovirus)に対して抗ウイルス作用を発揮することが期待されている中和抗体薬です。カシリビマブ/イムデビマブと同様に、中和抗体薬は、発症から時間の経っていない軽症例において重症化を抑制する効果が示されています。
少なくとも1つ以上の重症化リスク因子を持つ軽症COVID-19患者を対象とした第III相のランダム化比較試験では、中間解析において発症から5日以内にソトロビマブ500 mg単回投与群(291名)では、プラセボ投与群(292名)と比較して、主要評価項目である投与29日目までの入院または死亡が85%減少した(p=0.002)
オミクロン株に対しても、in vitroの評価で活性が維持されることが製薬企業等から報告されている。
【 ソトロビマブ のポイント】
・COVID-19の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行う。
・他の抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体が投与された高流量酸素又は人工呼吸管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。
・ 症状出現から7日以内の使用が望ましい 。
・オミクロン株にも有効な可能性がある。
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